年頭所感-大西晴樹院長・学長-
2025年01月06日
W・E・ホーイ先生の教えー変えられないもの、変えるべきものー
院長・学長 大西晴樹 |
新キャンパスの開学と新設4学部の開設により東北学院大学のプレゼンスが向上し、取材を受ける機会が多くなりました。取材の際に、大学の将来像を述べた後に必ずといっていいほど尋ねられることがあります。「ところで、先生は東北学院において、どのような人間を育てたいのですか」。私は、「東北学院の建学の精神は139年前の開学以来、福音主義キリスト教による人格教育であり、LIFE LIGHT LOVEの精神をもった人物です」と判で押したように答えるようにしています。東北学院にとって、建学の精神、スクールモットーは、どんなに時代が変わろうと、誰が教育研究上の責任者になろうと、変えてはならない不変の精神なのです。
本年4月から、理事会と評議員会との役割の変化などを盛り込んだ改正私立学校法が施行され、それに伴い東北学院寄附行為も改訂されます。寄附行為第3条は、「この法人はキリスト教に基づいて徳育を施すとともに」という記述から、「この法人はキリスト教に基づいて徳育を施すことを不変とし」と述べ、「建学の精神」をよりいっそう明確にします。
東北学院三校祖の一人W・E・ホーイ先生は、東北学院開院式の演説のなかで、以下のような強い言葉で学院開院の決意を述べています。「信仰、祈り、神との交わり、イエス・キリスト、そして日本人への奉仕のうちに、この学校を存続することを決断したのである。もしこれに失敗するなら、この学校を親身に思ってくれている人びとは、この学校がその頭石へと消えてなくなることに頓着しなくともよい。キリスト者の声が傾聴されなくなったとき、キリスト者の影響力がこれらの校舎で通じなくなったとき、凡ての梁を引き倒し、凡ての煉瓦を粉々にする破壊の手に一切を委ねなさい」。また日々発展しつつある科学についてはこうも述べています。「もちろん東北学院は科学に価値を置く。東北学院は、科学が教えなければならないこと、あるいは授けられなければならないことの一切を喜んで受け入れる。科学によって人間にもたらされる慰め、祝福、進歩を素晴らしいことだと思っています」。(以上「東北学院開院式におけるW・E・ホーイの演説」1892(明治25)年11月18日(英文)『東北学院百年史資料篇』834ページ)。
他方で、東北学院は現在、大きな時代の変化の波に晒されていることも事実です。私はこれを東北学院139年の歴史のなかで第3の波の到来だと考えています。第1の波は、開国日本におけるウェスタンインパクトへの対応としての仙台神学校、そして5年後の東北学院の開院。キリスト教教育を施す中等・高等教育機関を創立することによって、開国の波を受け止めました。第2の波は、戦後の新制大学における英語教育です。学院が誇る多くのネイティブスピーカーの教員、LL教室などの優れた施設は、「英語の東北学院」のブランド力を東日本の津々浦々に浸透させました。そして、今回のポストコロナに顕著な高度情報人材の育成の波です。
大学に関していえば、コロナ禍の2020年度BYOD(私的端末の活用)を実現、2022年度文部科学省による「MDASH(数理・データサイエンス・AⅠ教育)プログラム」リテラシーレベルの全学部での認証、2023年度情報学部データサイエンス学科の設立、学修ポートフォリオTG-フォリオの導入、2024年度経済学部・工学部での「MDASHプログラム」応用基礎レベルの認証、そして、新しい年度である2025年度大学院経済学研究科経済データサイエンス専攻修士課程の開設。以後、構想中ですが、2026年度全学部での「MDASHプログラム」応用基礎レベルの認証、「特定成長分野への転換にかかわる文部科学省の支援」が認められた2027年度新設の未来探究学部未来探究学科(仮称)の開設と目白押しです。とりわけ、大学院の経済データサイエンス専攻というダブルメジャーの新専攻と未来探究学部は、東日本・東北に顕著な産業の衰退、人口の少子高齢化、過疎化、防災・減災などの現実の課題に対して、データサイエンスやデジタル技術を用いて、EBPM(Evidence Based Policy Making=証拠に基づく政策立案)やPBL(Project Based Learning=課題解決型学修)を追究する点で、教育研究上の新機軸を打ち出しています。
新年を迎え、思いを新たにし、アメリカ合衆国の神学者ラインホルド・ニーバーの「平安の祈り」を紹介して稿を締めくくります。
「神よ、変えることのできないものを静穏に受け入れる力を与えてください。
変えるべきものを変える勇気を、そして、変えられないものと変えるべきものを区別する賢さを与えてください。」