史資料センター主催「2025年度公開シンポジウム」開催報告
2025年12月01日
土樋キャンパス百年のあゆみ
史資料センターは、2026年に開設100周年を迎える土樋キャンパスを記念し、「土樋キャンパス百年のあゆみ」と題した公開シンポジウムを11月15日に開催しました。同日午前中には「学校法人東北学院所有文化財見学ツアー」も実施され、一日を通してキャンパスの歴史を体感する貴重な機会となりました。
土樋キャンパス内の文化財の見学は、まずはラーハウザー記念東北学院礼拝堂からスタート。礼拝堂建設にあたり、米国のエラ・A・ラーハウザーからの献金は5万ドル(現在の価値で約5億円程度)に及び、それを記念して命名されたとのこと。正面のステンドグラスは英国のヒートン・バトラー&バイン工房から直輸入され、創建当時の輝きを保つ国内唯一の現存例となっています。
続いて土樋キャンパスの3つの主要建物である大学本館、礼拝堂、図書館(現大学院棟)から成る「シュネーダーのマスタープラン」を解説。特に本館に焦点を当て、建設背景から建築意匠、素材、設計者のJ・H・モーガンについて詳述。さらに戦時中の金属供出や仙台空襲と資料の保存など、歴史的エピソードがいくつも紹介されました。
重要文化財である東北学院旧宣教師館(デフォレスト館)は外観のみの見学。明治時代に建てられた日本最古級の宣教師館であり、コロニアル様式に鬼瓦などの和洋折衷が特徴。東日本大震災で被災したため、現在は整備を計画中。参加者は貴重な建築群に触れ、その歴史の流れを体感していました。
午後からはホーイ記念館ホールにおいて、東北学院史資料センター主催の「2025年度公開シンポジウム」が開催されました。開会に先立ち大西晴樹院長・学長がご挨拶を述べた後、「土樋キャンパス百年のあゆみ」と題してた基調講演がスタート。
最初の登壇は東北学院史資料センター客員研究員の日野哲氏。「東北学院創立40周年と土樋キャンパスの開設:記録映像を見ながら」というタイトルで解説。本学の三校祖である押川方義、W.E.ホーイ、D.B.シュネーダーによる創立時の状況や校舎建設のエピソードから黎明期の変遷が伝えられました。特筆すべきは、戦前にキリスト教教育を迫害するような文部省訓令(訓令十二号)により、上級学校への進級資格が得られなくなり、生徒数が激減。これを乗り越えるために、「普通科」と「専門科」を新たに申請し、東二番町に校舎も建設。シュネーダーの経営手腕により危機は打開された。その後も幾多の困難を乗り越えた歴史を時系列で説明。さらに「東北学院の40年」という貴重な大正15年当時の映像資料を用いた記念映画を上映。おさらいするように、写真や地図、動画により詳細に映し出され、40年記念行事に三校祖が25年ぶりに再会するシーンは、歴史が現在に蘇ったようなインパクトを与えました。
次に本学工学部准教授の﨑山俊雄氏が登壇。「土樋キャンパスの100年。1926-2025」と題して、東北学院の創立から戦後を経て現在に至るまでの歴史とキャンパス構想、建築の三視点から総合的に解説されました。創設者の明確なビジョンが、不安定な初期段階を乗り越え、後の発展の礎を築く。校舎の設計には日本で活躍した外国人建築家が一貫して登用され、明治の中学部には神戸に異人館などを建てたドイツ人建築家が、南町大火後の赤レンガ校舎は立教学院と同じ設計者が関与した。火災による校舎焼失の危機には、渋沢栄一をはじめとする著名人や市民から多額の寄付を獲得。創立40周年を機に3キャンパス体制を確立し、総合教育機関としての地位を固めて、大規模な発展へと結実していった。途中には向山・八木山への移転構想も持ち上がったが、「市民への教化」の観点から都市型キャンパスを維持。こうした歴史の継承、新しいものと歴史あるものとの融合、歴史的建造物によるブランディングが重要であることを力説しました。
続いては関西学院大学社会学部教授の赤江達也氏(関西学院学院史編纂室長)が登壇され、「キリスト教主義学校の空間思想史 ─関西学院のキャンパスから─」というテーマで解説。原田の森キャンパスから西宮・上ヶ原キャンパス(1929〜現在)への変遷を総合的に説明。原田の森では都市と自然の融合、上ヶ原では阪急沿線開発と連動した中心軸(正門--中央芝生--時計台--甲山)による象徴的景観、「スパニッシュ・ミッション・スタイル」(赤瓦+クリーム壁、半円アーチ)で統一されたキャンパスイメージを確立。
1950年代の意匠のブレを経て、1960年代以降はスタイル回帰。戦争・学生運動・阪神淡路大震災(1995年)といった危機を乗り越え、1995年以降の神戸三田、2008年の宝塚、西宮聖和などの複数キャンパス化に際しても、ブランドの統一を保持。創立者の理念「Mastery for Service(奉仕のための練達)」は、自己修養の核であり、建築文化の継承を支えている。保存するだけではなく、更新を通じて大学のアイデンティティを強化してきました。
最後に立教大学経済学部教授の岡部 桂史氏(立教学院史資料センター長)は、「立教大学池袋キャンパスの戦前・戦後 ― 2つの震災と1つの戦争を経験して―」というテーマで詳述。特に現在編纂中の『立教学院百五十年史』に触れ、その背景や特徴、過去の年史との違いを解説。統合的な年史を編纂することにより、一次資料の長期蓄積を優先しました。築地から池袋への移転がアメリカ聖公会のアジア伝道の一環であったこと。鉄道前夜のタイミングで都市縁辺の先取りにより、資産価値の最大化に成功。関東大震災や空襲がキャンパスに与えた影響がアイデンティティ形成にどう結びついているかを論じました。聖公会の主導と資金で拡張・移転を加速し、災害後も迅速に再建。中核となるチャペルは免震構造として、精神的アンカーを堅持。学業とスポーツを並置して、健全な教育を具現化していきました。
休憩をはさんでのパネルディスカッションでは、講演者4名と齋藤誠氏(元本学副学長・法学部名誉教授 )がファシリテーターとして登壇。三校の歴史的建造物、キャンパスの立地とアイデンティティ、そして東日本大震災の影響について議論しました。 東北学院は震災で礼拝堂に被害を受けたが、都市中心部に留まり続けた歴史を持つ。一方、関西学院は郊外型を維持し、立教大学はカレッジ・ゴシック様式を都市型キャンパスで継承。各大学が「建学の精神」と建築を通じてどう継承してきたかが浮き彫りになりました。大学の立地は、その後のアイデンティティと発展を決定づける根本的な分岐点となる。キャンパスは、100年前の学生と現代の学生が同じ場所で学ぶことで、歴史の連続性を体感する。各校の違いと共通点を明確にしながら、奥深い議論の中で、閉会の時間を迎えました。
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